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記事 | ARTICLE

暗号(?)解読

2024.11.26
出雲
2月になれば,雪深くなる奥出雲。そんな時に活躍するのが・・・

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ある日の会話

以下の音声をお聞きください。声はお一人の声ですが,二人の人の会話です。

どんな会話か分かるでしょうか?

 

 

文字に起こしてみます。便宜的に,カタカナで書きます。

 

カー カカーカ

オー カカー

ホンニ カカーカ

オーオー マゲニ カカーズネ

ホーホー ホンナラ カーカ

ホンニ カーカネ

ホンニ カー

ホンナラ カカーカ

オー カカー

 

「カー」とばかり言っていますが,これで立派に会話が成立しています。

ちょっとずつ解読していきましょう。

単語の中の「リ」「ル」が脱落する

最初の4文が,まず1つのセットです。

 

カー カカーカ

オー カカー

ホンニ カカーカ

オーオー マゲニ カカーズネ

 

ここで何回も出てくる「カカー」。じつは「(エンジンが)かかる」ということを意味しています。

 

本年7月18日に公開した「胡桃と油桐」という記事の中で,仁多方言では元々「クリ」「クル」と発音されていたものが「クヮー」と発音されるようになる変化が起こったことを紹介しました。

 実は,仁多方言を含む出雲方言では,広く単語の中の「リ」「ル」が脱落して,「トリカゴ(鳥籠)」を「トーカゴ」と言ったり,「サル(猿)」を「サー」と言ったりする現象が見られます。この「カカー」も「カカル」の最後の「ル」が脱落し(て,その前の母音がのび)たものです。

 

冒頭の「カー」は「これは」という意味を表します。

出雲方言では,「コレ」「ソレ」「アレ」「ドレ」を,それぞれ「コー」「ソー」「アー」「ドー」と言いますが,これも上で述べた単語の中の「リ」「ル」が脱落する現象と同様のものです。この場合,脱落しているのは「レ」ですが,おそらく「コレ」「ソレ」「アレ」「ドレ」などの指示詞はたくさん使われるので,例外的に脱落が生じたのだと思います。

そして,「コー」に助詞の「ワ」がついた「コーワ」が縮こまって,「カー」となったものと考えられます。

 

つまり,この4つの文はそれぞれ以下のようになります。

 

カー カカーカ                                    「これは(エンジンが)かかるのか?」

オー カカー                                         「うん,かかるよ」

ホンニ カカーカ                                「本当に,かかるのか?」

オーオー マゲニ カカーズネ      「うんうん,ちゃんと,かかるよ」

 

実は,この会話は,中古の除雪車が販売されている店での,店員さんとお客さんの会話なのでした。その前提で,続きの会話も解読してみましょう。

母音が連続したら融合する

次の3文が,また1つのまとまりになっています。

 

ホーホー ホンナラ カーカ

ホンニ カーカネ

ホンニ カー

 

既に,この会話が中古除雪車販売店での会話であると分かっていますので,なんとなくお分かりになると思いますが,ここでの「カー」は「買う」を意味します。

全国の色々な方言で,あるいは,世界中の諸言語で,母音が2つ以上連続すると,それらが融合して,ひとまとまりの音になることがあります。ここでも,「カウ」の中のauという母音の連続が融合して,aaという長母音が生じています。

ちなみに,この方言では「買って」は「カーテ」と言います。西日本の方言でよく見られる「コーテ」という形と少し異なることに注意してください。このことが,次のトピックと関わります。

 

さて,先の3文に対応する共通語を,念のために記しておきます。

 

ホーホー ホンナラ カーカ          「ほうほう,じゃあ,買うか」

ホンニ カーカネ                                「本当に買うのかね?」

ホンニ カー                                         「本当に買う」

アウとオウの区別を残す

最後の2文を見てみましょう。

 

ホンナラ カカーカ

オー カカー

 

この「カカー」は,当然「かかる」ではありません。実は,これによく似た言い方が,9月24日の「一緒に行こう,だから,来い!:奥出雲からのお誘い」という記事で出てきました。「一緒に行こう」を意味する「イカーコイ」の「イカー」の部分です。

その時の記事でも書きましたが,「イカー」というのは,「行こう」のような意志あるいは「行くだろう」のような推量を表す形式です。共通語の「イコー」も出雲方言の「イカー」も,どちらも,古典語の「いかむ」という形式に由来しています。それが,おそらく「イカウ」のような形式を経た後,別々の方向に変化して,共通語で「イコー」,出雲方言では「イカー」というようになりました。

実は,共通語を含む多くの方言では,「イカウ」のような場合のauという母音連続も,「キノウ(昨日)」のような場合に見られるouという母音連続も,どちらも同じオ段の長音で発音されるように変化をしました。一方で,出雲方言では,auという母音連続がア段の長音になったのに対し,ouという母音連続はオ段の長音に変化し,その区別を残しました。先ほど言及した,多くの西日本方言で「買って」を「コーテ」(「カウテ」に由来)と言うのに対して,出雲方言では「カーテ」という違いがあるのは,そのためです。

そういうわけで,ここの会話で使われている「カカー」も,何らかの動詞の意志を表す形なのです。最後の2文は以下のような意味になります。

 

ホンナラ カカーカ           「それでは,(契約書を)書こうか」

オー カカー                        「うん,書こう」

実際に,このような会話がなされるかは分かりませんが,地元の皆さんの中では,ある種の「ことば遊び」として,よく知られています。ここでは,その背景にある,出雲方言の様々な特徴について説明してみました。

 

なお,この会話文については,奥出雲弁研究会の皆様に教えていただきました。記して感謝申し上げます。

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Q.

沖縄県・宮古島の西原のことばで、「太陽」は何と言いますか?

What is the sun called in Nishihara-Ikema, Miyako Island?

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