イラスト:金原みつみ
静岡県の北部には、「井川(いかわ)」と呼ばれる山深い集落があります。
南アルプスの山々や、険しい谷に四方を囲まれており、ダムが建設される1950年代までは、道路もありませんでした。
井川は、いわゆる「言語の島」で、周囲の地域とは異なることばや表現が多くあります。
例えばマムシは、かつて「クソヘビ」と呼ばれていました。
国立国語研究所が1960年代に行った調査によれば、中部地方で「クソヘビ」という語が使用されるのは、井川地域のみとなっています。
https://mmsrv.ninjal.ac.jp/laj_map/data/LAJ_228.html
語の頭につく「くそ」と言えば、「くそばばあ」のように、口汚く悪口を言う際に使われるものです。
マムシは、よほど嫌われていたのですね、と井川の人たちと笑い合いました。
マムシがトグロを巻いている様子が、その形状に似ていることから「クソヘビ」と呼ばれた、というお話も伺いました。
ところが、この「クソ」は「くさい」から来ている、というお話を耳にしました。
調べてみると、マムシは確かに、花のような独特の匂いを放つそうです。
井川方言では、甘い花の香りを「うまっくさい」ということからも、可能性がありそうです。
そんな折、新たな証言が舞い込みました。
「昔の人は、クソヘビではなく、クソリヘビと言っていたよ。」
はて、「クソリ」とは一体何のことだろうと思ったら、「クスリ」のことだそうです。
マムシは、薬として余すところなく使われていました。
皮を剥いで内臓を取り出し、遠火であぶったものや、乾燥して粉にしたものは、熱冷ましとしてよく効いたそうです。
心臓や目玉をそのまま水で飲み込んだ、という逸話も。
冷凍したクソヘビ。頭の部分には毒があるので触ってはいけないそうです。
クソヘビを粉にしたものを味見させていただきました。
クソヘビをどのように捕まえたのか、井川で生まれ育った望月敏彦(87歳)さんに教えていただきました。
この首のここをつかむってゆうだよ
ここやると首がこうひんまあって(=ひん曲がって)かあれる(=噛まれる)から
首の根本をこうゆうにつかむ
そう、ここをね
そうせえば首が回らんから
これをここでやると、こうまあって噛まれるから
---
なんと、首の根本を手でつかんで、捕まえたそうです!
さらに、クソヘビに噛まれた時にはどうするのか聞いてみました。
ほいで急いで、そこさ、そこ、ちいっと切って
ほして血を吸って、ほして、
ここ、血、戻らのうんにね(=戻らないようにね)
ほして、こういうあの、絆創膏とか、リバテープをな
---
クソヘビに噛まれたら、すぐに血を口で吸い出し、心臓側の血管を鉈などで切って、毒が回らないようにしたということです(驚愕)。
街から遠く離れた井川では、すぐに病院にかかることができなかったので、多くの民間療法が伝承されてきました。
「クソヘビ」ということばには、罵りの意味はなく、マムシが薬として重宝されてきたことを表しているのかもしれません。
クソヘビをどのように捕まえたのか、井川で生まれ育った望月敏彦(87歳)さんに教えていただきました。
この首のここをつかむってゆうだよ
ここやると首がこうひんまあって(=ひん曲がって)かあれる(=噛まれる)から
首の根本をこうゆうにつかむ
そう、ここをね
そうせえば首が回らんから
これをここでやると、こうまあって噛まれるから
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なんと、首の根本を手でつかんで、捕まえたそうです!
さらに、クソヘビに噛まれた時にはどうするのか聞いてみました。
ほいで急いで、そこさ、そこ、ちいっと切って
ほして血を吸って、ほして、
ここ、血、戻らのうんにね(=戻らないようにね)
ほして、こういうあの、絆創膏とか、リバテープをな
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クソヘビに噛まれたら、すぐに血を口で吸い出し、心臓側の血管を鉈などで切って、毒が回らないようにしたということです(驚愕)。
街から遠く離れた井川では、すぐに病院にかかることができなかったので、多くの民間療法が伝承されてきました。
「クソヘビ」ということばには、罵りの意味はなく、マムシが薬として重宝されてきたことを表しているのかもしれません。