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いしゃー、どこんこ?-新島の子どもが方言と出会うとき

2026.07.31
新島

伊豆半島の南東の沖合には、「伊豆諸島」と呼ばれる島々があります。行政区画上は東京都に属するため、「東京都島嶼部(とうしょぶ)」とも呼ばれています。

 

伊豆諸島のうち、本土に近い方から数えて3番目の有人島が、新島です。

 

空から見た新島の周辺:一番手前の三角の島が利島、真ん中の大きな島が新島、新島の右の平らな島が式根島

 

 

新島は人口1,900人ほどの島で、隣に位置する式根島とともに新島村を構成しています。島内には村立の小学校と中学校、都立の高校があり、子どもたちも島で日々の生活を送っています。ただし、子どもたちの中で島の伝統的なことばを日常的に話す子は、現在ではほとんどいません。

 

今回は、そんな新島の子どもたちが日常のなかで方言と出会う場面を紹介します。

新島の子どもに「知っている方言の表現があったら教えて」と言うと、たいていの子が「いし」を挙げます。

 

 

「いし」

 

 

「いし」は、共通語の「あなた」にあたる二人称単数代名詞です。新島方言には、目上の人や年上の人を指す特別な二人称代名詞がないため、「いし」は家族や友達だけでなく、先生やお年寄りなど、どのような相手にも使える便利な表現です。

 

さらに「いし」は、「あなた」という意味を薄めて、「いしゃー」という形で(この形については後述)、共通語の「ほら」のように会話の中で相手の注意を引く表現としても使われます*。

 

 

「いしゃー」

 

 

 

会話の中での「いしゃー」

 

音声の内容
じにが なくてぃ じゅーいぇんの じにが なくてぃさ
(お金が なくて 10円の お金が なくてさ)
そいでぃ いしゃー また そーと いっちょいてぃ
(それで ほら また そうやって 行っておいて)
また こーと もどってぃよー
(また こうやって 戻ってね)

 

このように、「いし/いしゃー」は非常に汎用性の高い表現です。島内では頻繁に耳にするので、方言を日常的に話さない子ども世代でも、「いし」だけは仲間内で使っていることが多いようです。ですから、子どもたちが「『いし』なら分かる」と答えるのも納得です。

ところが興味深いことに、知っている表現として「いし」だけでなく、なぜか「いしゃー、どこんこ?」というフレーズを挙げる子がたくさんいました。

 

 

 

「いしゃー、どこんこ?」

 

 

先ほどもあった「いしゃー」というのは、「いし」に共通語の「〇〇は」の「は」に相当する助詞「あ」が付いた形で、「あなたは」という意味です。「どこんこ」は「どこの子」という意味です。つまり、「いしゃー どこんこ?」は「あなたはどこの子?」と尋ねる文ということになります。

 

「あなたはどこの子?」という質問を、子どもたちがまるで定型句のようにそろって答えるわけです。どういう状況でこのフレーズを覚えるのだろうか…… まったく見当がつかず、私と同じく方言の活動に取り組んでいる小学校の先生に聞いてみました。

 

先生、なぜか多くの子が「いしゃー、どこんこ?」を知っているというのですが、どういうことでしょう。

すると先生は、

先生

それは新島の子どもが受ける洗礼だから(笑)

と説明してくれました。

 

どうやら、新島の子どもは、通りを歩いていると、「うんばーら」(方言で「おばあさんたち」)にしばしば「いしゃー、どこんこ?」と聞かれるそうなのです。

 

新島の一般的な通りの風景

 

 

うんばーらは、道を歩いている子がいったいどこの家の子どもなのか気になって、「いしゃー、どこんこ?」と尋ねます。

同じ名字の人が多い新島では、それぞれの家を区別するために屋号が使われています。子どもがうんばーらに自分の家の屋号を教えてあげると、「ああ、あの家の子どもか」と納得してもらえるわけです。

 

ところが、たいていの場合、尋ねたうんばーらの方は、なんとなく道端の子どもに声をかけただけで、その子が誰だか本気で覚えようとしているわけではありません。そのため、日をまたいで何度も何度も質問することもしばしばとか……

 

これを聞かれて本当に困るのは、本土から引っ越してきた子どもです。方言がまったく分からない状態で突然尋ねられるため、最初は面食らってしまいます。しかし、やがて慣れてくると、屋号の代わりに「学校の先生!」や「警察!」などと、親の職業を答えて、この質問をうまく切り抜ける術を身につけていくそうです。

 

先生がこのやりとりを「新島の子どもが受ける洗礼」と呼んだのは、そういうわけでした。

さて、今回は、新島の子どもたちを取り巻く日常の一場面を紹介しました。何度も何度も同じことを方言で尋ねていれば、子どもたちにもいつかは覚えてもらえる――「いしゃー、どこんこ?」は、そんな期待を抱かせるエピソードのような気がします。

*専門的には「談話標識」と呼びます。

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Q.

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