
弘前城
大半の日本の高校生は『古事記』・『日本書紀』、又は『万葉集』といった古典の文献を読みます。これらの作品は奈良時代(8世紀)に使われていた日本語の最も古い記録段階である「上代日本語」で記されています。
こうした古代文献に見られる多くの語が、現在も様々な日本本土諸方言に存在している事実は、意外に思えるかもしれません。
実際、柳田國男が1930年に提唱した有名な「方言周圏論」によれば、日本における方言の変化は、文化の中心地(京都・奈良地域)から周辺地域へと同心円状に広がる「中心対周辺モデル」で進行する傾向があります。この見解によれば、津軽地方や鹿児島地方など、京都から離れている地域の方言には古い形態(語彙、発音、文法など)が残っているはずです。
このことは、日本最古の文献に確認される以下の津軽方言の言葉が、現代の共通語はもはや使用されていない事実によって裏付けられます。
下の表では、『古事記』や『日本書紀』などの古典に見られる語が、現在の津軽方言にどのように残っているかを示しています。
それぞれの行には、津軽方言の語形(TD)、共通語の対応語(SJ)、津軽方言と同じ形が出てくる文献、品詞、英語訳、そして実際の方言例文が記されています。
この表を見ると、古代の日本語の一部が、現代の津軽方言に受け継がれていることが分かります。
① わ、今度 嫁こ もらう
(私は今度、妻を迎える)
② わだっきゃ こいぐ なってまった じゃ
(私は疲れてしまった)
③ な、わの どごさ 嫁こさ こねが?
(あなたに私のお嫁さんになって欲しい)
④ なだば きがね ふと だ な
(あなたは気が強い人だな)
⑤ 嘘 へば まね よ
(嘘をついてはだめだよ)
⑥ 借りだもの すまさねば まね よ
(借りたものは返さないとだめだよ)
⑦ 遊びに いぐんだば おんじも かでへ
(遊びに行くなら弟も連れて行きなさい)
⑧ おんちゃまの こと かでで えらい な
(弟の面倒をみてえらいね)
⑨ ださいだ まま のごせば いだわし よ
(出されたご飯を残すのは勿体無いよ)
⑩ そう わがくて 亡くなるんだば いだわし な
(そんな若くして亡くなるなんて口惜しいことだ)
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